サワーチェリーパイ
気付けば夕方で、周囲の家族連れの姿は消えており、後には熱愛中のカップル達だけが残されている。


しっぽりとした空気が2人を包み、居心地の悪さを感じた2人はベンチを立ち上がって水上バスに向かう。


「どこ行くんだ? 」
「絶叫マシーンに乗りに行く、俺、苦手だけどお前のそんな顔見るの嫌だから。叫んで元気になれよ」


みなとみらいまで水上バスに乗りながらデッキで海面を眺めていると、陽生は思わず晴斗の腕に手を回した。


「いきなりどうしたんだ? 」


ここでこんな事を聞くなんてヤボったい晴斗に、少しだけあきれながらも陽生は少し笑顔を浮かべる。


「カッコつかねえだろ、こんな所で。いいか、こういう時には、普通男の方から腕を組むモンなんだ」
「あ、そうか」


口ではそう言うけれど、本当は少しだけ晴斗の優しさに答えてやりたくなったのだろう。
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