サワーチェリーパイ
ある意味、彼にしてはよくやったと思うが、本人は妄想する気力すら失せており、白目をむいていた。


何とも情けないありさまに、陽生は深いため息をもらしながら、体をゆさぶる。


「おい、大丈夫か? 」


またもや、半分死にかけた晴斗をコースターから引きずりおろし、すぐ下のベンチで休ませるハメとなった。


「あぅぅぅ」
「もう、しっかりしろよ」


陽生は横に座り、膝の上に晴斗の頭を乗せる。


男達の永遠の夢『ひざまくら』であったが、彼にはもう妄想する気力すら残されてはいない。


「こうなると思ったよ」


あきれながらも呟くが、晴斗を見詰める視線は暖かかった。


嫌いな乗り物にも、自分をはげます為に乗った彼の勇気に少し感動したからだろう。
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