サワーチェリーパイ
何も言わない陽生を前にして、さらなる突入をして行く。


「俺は、もうお前しか見えてない。こんなに好きになって、バカみたいに頑張って、でもいっつも交わされてよ、それでもメゲちゃあ立ち上がって……」


そんな晴斗を見ている内に、陽生の胸の中で樹の姿が薄れ始める。


同時に、あんなに思いつめた相手なのに、ここで忘れてしまってもいいのかと悩みが募った。


「こんな所で話すのも、何だから中に入れよ」


昼間で周囲には誰も居ないが、こんな状況を見られては大変だとマンション内に連れ込む陽生。


部屋に入ると、すぐにコーヒーを出す。


しかし晴斗は、それを一口も飲まずにただ目の前の陽生を見つめて返事を待った。
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