サワーチェリーパイ
それではいけないと思った陽生から、ようやく口を開いた。


「今日は楽しかった、東京でのいい思い出になったし」
「来てくれてありがとよ、俺、迎えに行くまで不安だったんだ。もしかしたら、お前がとっくに引っ越してるかも知れないって」
「約束しただろ、『最後の頼みだ、この間知らせたパーティーには来てくれよ。帰る前に、絶対』とか言ってさ」


わざと声色をまねて言った陽生が笑い出したが、彼は笑わない。


2人で過ごせる時間を、必死な思いでカウントしていたからだ。


「時間って何でこんなに残酷なんだろうな、俺、初めてこんな気持ちになった」
「楽しい時間は早く過ぎるってヤツだろ、でもな、時間は残酷じゃない、人の気持ち次第なんだ」
「じゃあ、陽生の事を待っててもいいのか? 」


一番言われたくない言葉を伝えられて、陽生は答えに詰まる。


正直に全てを伝えれば、きっと晴斗をこれまで以上に傷つけると思っていたから。
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