サワーチェリーパイ
マンションの部屋の前まで送り届けた晴斗がそのまま帰ろうと背中を向けた瞬間、急にせつなさがこみあげた陽生はその背中へと飛びつく。


「ごめん、勝手だけど今日はここに居てくれ」
「いいのか? 」
「いいから」


部屋の中に入った晴斗は、積み上げられている段ボールに息を飲む。


もうすぐ帰郷してしまうという現実に、直面したからだろう。


「片付けてんだな」
「狭いけど、まあ座ってくれよ」


唯一そのままになっているベッドに座らせて、陽生はドレスのままコーヒーを入れにキッチンへ立つ。


「汚れるから俺やるよ、その間に着替えろって」
「じゃあ、頼む」
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