サワーチェリーパイ
昼下がりの工事現場、作業着姿で愛妻弁当を食べているのは三次。


あれから、高校卒業と同時に例の子持ちの彼女と結婚した彼は、今や連れ子も含めて6人の父親になっていた。


「坊ちゃん、バックホーの手配はどうなってますか? 」


職人がたずねて来ると弁当を急いで流し込み、電話を始める。


「おう、俺だ。この間、レンタル頼んでただろ。ん? すんませんじゃねー! 早く持って来いってんだ! 」


すっかり凄みが増し、迫力充分で電話相手はふるえ上がった。


「ったく、おい。バイトの若いのはどうした? 」
「今来ます」
「最近のワケーのはしょうがねえな」


まあ、そういう彼も23歳の若い男だが。


午後の作業開始を告げるサイレンが鳴り、愛機のパワーショベルに乗り込むと運転席に置かれた子供と愛妻の写真に微笑する。


「ココが完成したら、お前ら連れて来てやるからな」


今、彼は『オーシャンパーク』という巨大水族館の現場監督兼重機運転者として働いていた。


今日もまた、家族のために汗を流す。

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