サワーチェリーパイ
国立大学の駐車場で濃紺のBMWから降り立ったのは、坊ちゃん刈りに眼鏡の青年。


更衣室で白衣に着替えると、すぐに研究室へと飛び込んで行く。


「駿府君、この間受け取ったレポート『落下衝撃時における脳細胞活性の可能性について』だが、あれはどこのデーターを元に作成したのかね? 」


偉そうな教授に問われると、自慢げに胸を張って答えた。


「僕の臨床データーに基づき作成しました」
「しかしだね、これはわずか一例しか無いし、このまま受け取るワケには行かん。この学力のデーターはどう見てもおかしい」
「お言葉ですが先生、実例を元に作成しましたので僕は変えません。現にこのクランケは、学力が急に向上し……」


小1時間も彼の熱弁は続き、うんざりした教授は手を振る。


「もういい、分かったから」
「本当にお分かりいただけましたか? 」
「ああ、充分」


彼は今、国立大学の医学部で脳の研究を続けていた。


そう、あの奇跡を目撃したから。

< 286 / 293 >

この作品をシェア

pagetop