サワーチェリーパイ
ソウルダイナーは、あの頃から変わらず営業を続けていた。


もちろん、マサヨも磨朝もウェイトレスをつとめており、近辺の学生の溜まり場として重宝されている。


ただ、彼らの様にいつものメンバーが全員あのボックス席に集るような事は無く、少し彼女達をさみしがらせていた。


そこへ1人の客がおずおずと入って来る。


長い髪を柔らかに束ね、薄化粧をした美人だ。


「こんにちは……」
「いらっしゃいませ、あ、もしかしてアンタ! 」
「あーっ! 」
「すみません、人数が多い上に夜までここで仕事をしたいんですが」


マサヨも磨朝も意外な人物の登場に、口をあんぐり開けている。


「おう、久しぶりだな。陽生」
「マスター、お元気そうですね」


陽生の後に続くのは、老若男女入り混じったスーツ姿の集団で、あっと言う間に店内が一杯になった。


「何なんだ? この集団は」
「あの、もうすぐ作田川賞の発表があるんです。それで、思い出のあるここで待とうって話になって、急に押しかけてすみません」
「作田川賞って、晴生は作家になったのか! 」
「ええ、まあ……」
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