サワーチェリーパイ
田舎に帰った陽生は、携帯小説から一切の手を引き、純文学者を目指して地元の大学の文学部に入学し、卒業している。


そして、新人作家として東京の出版社の賞へ応募したところ、見事に入選。


トントン拍子に作田川賞の候補になったのだ。


懐かしいボックス席に座った陽生は、スーツ軍団に周囲を囲まれる。


コーヒーを出しながらも、磨朝はあふれる涙が止まらない。


「あの陽生ちゃんが」
「ガキ共はどうしてるかねぇ」


思い出にふける余裕も無く、マスターと２人のウェイトレスは次々に出る注文の応対に大わらわになった。


そんな中、１人ノートＰＣを見ていた陽生が小さく声を上げる。


「あ……樹」


液晶モニターの中には、あの樹と三井ハルカのツーショットが映し出されており、その下には


『氷上の熱愛実る！　高田　樹　三井　ハルカ　おめでた婚』


と書かれていた。


少し複雑な表情になったが、皆の手前、すぐに元通りに顔を引き締めるとＰＣを閉じる。





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