サワーチェリーパイ

「あの、彼は？　」


やっとの思いでとなりに居た編集長に声を掛ける彼女に、思いもかけない話が始まる。


「ウチの新人の御園ですよ。いやー、Ｔ大出でしてね。生意気にならないように、最初は色んな部署で雑用をやらせてるんです。先生、知り合いですか？　」


名前を聞き終えた瞬間、陽生は彼を追いかけて店を飛び出して行く。


磨朝とマサヨ、マスターは顔を見合わせてしのび笑いをもらす。


「変わっちゃったもんねーハルト君」
「バカ丸出しだったのが急に、ガリ勉になっちゃってさぁ」
「ある意味、奇跡だ」


その頃、必死の思いで走り続け、ようやく覇闘公園の近くで晴斗に追いつくと陽生は背中から抱きついた。


「晴斗！　」
「バレたか……久しぶりだな」
「何で言わないんだよ、もう」


彼の頭を軽く小突くと、覇闘公園のベンチに腰を下ろす陽生。


「ごめんな、俺、あの後しばらくお前の記憶無くなっててさ」
「ああ、落ちたって聞いてたけど。な、Ｔ大出たのって本当なのか？　」
「駿府の話だと、落ちた時の衝撃で細胞が刺激されて昔の俺に戻ったんじゃないかって」