聖なる夜に夢を見せて
 パーティが行われる当日になり、私は、玲ちゃんと駅で待ち合わせをしていた。
 時間よりも早いぐらいなのに、玲ちゃんは車から降りて駆けてくる。

「ごめん――いろいろ用意してたら遅くなった」
「私が早く着きすぎただけで、全然遅くないよ」

 玲ちゃんの後を追ってかっこいい男の人がやってくる。と、彼は私を見て一礼した。
 初対面なのに、どうしてこんなに丁寧なのだろうと不思議に思った

「これが私の彼氏――谷崎慎吾」
「いつも誠一と玲がお世話になってます。大変でしょ? 二人の面倒は」
「えっ?」

 丁寧に挨拶をしてくれたけど、誠一さんと言う人は知らなくて、どうしていいのかわからなかった。

「ウチの課の鬼課長は、慎吾の悪友なんだ」
「えっ――?」
「私がコネで入社した噂、ちょっと本当かも……」

 悪びれた様子もなく笑う玲ちゃんの頭を谷崎さんがこづくと、彼女は舌を出していた。
 恋をする女の子のかわいらしい表情に、胸がドキドキした。

「あの鬼畜男とこの強気娘に俺も手を焼いてるから、悠奈ちゃんの苦労はわかるよ」
「そんな……! 私こそお世話になってます」
「何か困ったことがあれば相談してよ。特に鬼畜の扱いには詳しいし」
「慎吾のお店のオーナーも課長タイプだもんね」
「でも、悠奈ちゃんなら結依ちゃんに相談した方がいいかもな」

 谷崎さんは困ったような顔をして私を見ていた。どうしてそんな風に言われるのかわからない。けれど、玲ちゃんのような優しさを持つ人だとわかった。

「オーナーが結依ちゃんにちょっかい出す前に行くか?」
「見張り隊が飼い慣らされてそうだし……」
「ほら、乗ってよ……悠奈ちゃん」

 玲ちゃんの誘導で車に乗り込む。二人もそれぞれの席に座り、車が発進する。
 車で連れて行かれた場所は、クリスマスの飾りがすごくキレイな建物だった。
 その建物から、可愛らしい男の子と女の子が出てくる。

「もう、慎吾お兄ちゃんも玲お姉ちゃんも遅い!」
「ごめんね……希依」
「パパの見張り隊は僕と希依じゃ無理だよぉ」
「そうだと思って早く来ようと思ってたんだけど……ごめんね、和依」

 小さな二人組は玲ちゃんの上着の裾をひっぱりながら、だだをこねるような仕草をする。
 それがすごく可愛くて、自然と笑みがこぼれた。

「ママが暖かい飲み物を用意してるから、店の中に行こうよ」
「そうだな……ここに立ってても寒いだけだしな」

 そんな会話をしながら建物に入る。白を基調にしたキレイな店内を見渡すと、そこにはたくさんの写真が飾られていた。
 幸せそうな家族の写真。こんな美容室もめずらしいけど、暖かさが感じられる。

「めずらしいだろう? こんな店も」
「は……はい。でも暖かみがあって素敵です」
「オーナーの最愛の家族だよ。でも、俺もこの写真が好きなんだ」

 たくさんの写真に写るのはさっきの可愛い二人だった。そして優しそうな綺麗な女性だった。
 まだ、若そうな彼女は、私とそんなに年が変わらないように感じた。

「いらっしゃいませ。今日はお店も貸し切りだから、そんなに緊張しないでね」

 写真に写っていた女性が微笑みながら、ティーカップを乗せたお盆を持っていた。
 そんな彼女に甘えてる和依くんと希依ちゃんがとても愛らしい。

「悠奈、この人が和依と希依のママ、結依ちゃんだよ」
「えっ……てっきりお姉さんかと」

 希依ちゃんの母親と聞かされても同じように思う。けれど、和依くんのお母さんだと言うことにただ驚くばかりだった。

「和依のホントのママじゃないんだけどね……」
「和依が生まれた頃の結依ちゃんは中学生。年はうちらとそんなに変わらないの」

 玲ちゃんと結依さんは、あっけらかんとした様子でそんな話をした。
 特に結依さんに限っては、複雑そうな感じではなく誇りに思っている様子だった。

「ウチの店は変わってるけど――オーナーが愛妻家だしな」
「慎吾はそのオーナーに負けて敗北したんだよ」
「昔の話だろう……馬鹿か、お前」

 少し恥ずかしそうな結依さんを尻目に、楽しそうに言い合う慎吾さんと玲ちゃんは本当に素敵な恋人同士だと思った。
 本当に素敵な人たちだと思いながら、暖かい紅茶に口を付けると、奥からかっこいい男性が現れた。

「本当に賑やかな連中だな。お前ら……」
「修ちゃん……!」

 結依さんが少女のような笑顔で男性に近づくと、男性は周りの気にせず彼女の頬にキスをする。

「和依は希依を連れて二階で遊んでろ……あとでプレゼントを買いに行くから」
「うん、パパ!」
「希依もいい子にしてろよ」
「はぁい」

 その男性に諭された和依くんと希依ちゃんは手を繋いで奥に入っていく。
 しっかり者のおにいちゃんがママに甘えたそうな希依ちゃんを可愛がってる様子が微笑ましく思えた。

「それより、玲の友達ってこの子か」

 男性が鋭い目で私を見る。けれど、怖いという感じではなく、課長みたいな優しさを持った人に思えた。

「うん。会社のムカつく女子にギャフンと言わせるように可愛くしてね。オーナー」
「玲もせいぜい女らしくなれよ。結依、こいつの髪を洗って……」
「うん……」

 結依さんは私のバッグとコートを預かった後、てきぱきと私をシャンプー台に案内した。
 彼女の細い指が丁寧に髪を洗ってくれた。

「悠奈ちゃんはOLさんだよね?」
「はい……」
「私は高校を中退して結婚したから、働いたことがないの」
「そうなんですか?」
「美容師の免許を取りたいけど、子供もいるから……」
「結依さんは働きたいんですか?」
「愛する人と子供たちのそばにいられること。が一番の夢だったから」

 結依さんは本当に幸せそうな顔をして、そんな話をしてくれた。
 どうして彼女がそんな話をしてくれるのかわからなかった。
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