抹茶飴。
彼女と違って僕の怪我はすぐに治ってしまった。

したくもない退院を大勢の人に祝われる。

僕には笑うしかできなかった。

今からあの地獄に戻るだけなのだから。

学校につくとまわりからずっと見つめられる。

見せ物にされた気分だ。

あのいじめの主犯は今でものうのうとこの学校を我がもの顔で歩いていた。

ここはかわらない。

僕は逃げた。

別の学校にも慣れた頃。

僕は彼女の病院に足を運ぶ。

でもそこに彼女はいなかった。

看護婦によると僕が退院した夜に容態が急変したらしい。

死ぬ直前に口にした言葉は両親と僕の名だったらしい。

その日から僕は脱け殻のようになってしまった。

ただただ、成長していくからだと僕を包む環境がかわるだけ。

そんなある時、僕の友人がふざけて僕にこういった。

「コーヒーはブラックで飲めないとかっこいい大人と言えないよな!」

その言葉に彼女を思い出した。

会社の自販機でブラックのコーヒーを買う。

屋上へと出て缶を開けた。

もう地面からは僕を呼ぶ声は聞こえない。

僕は缶コーヒーを飲む。

苦い。

顔をしかめてしまった自分に笑った。

確かにこれを飲めたら大人かもなんて思えたんだ。

後日僕は彼女の墓の前にコーヒーをおいてこういった。

「まだかっこいい大人にはなれませんでした」

彼女がクスッと笑った気がした。

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