【短】ある歴史学者の見解


 いや、当時の『愛』っていうのは今のものとは意味が違うんだ。

 そう。それは君でもわかるだろう。

 うん?どういうことかって?

 ああ、現代の兆しの話だね。




 純愛──つまり、何ものも犠牲にできる程純粋な愛とでも言えるだろうか。

 はは、そう。今じゃ考えられないね。

 当時のノベルの中にこんなものがあった。






 ある若い男女のパートナーがいた。当時は恋人と言ったらしいけどね。

 二人はとても愛し合っていたんだが、ある日突然彼女が別れたいと言い出した。

 理由を聞いても何も言わないまま、彼女は男の前から姿を消した。

 だが男は彼女の事が忘れられなかった。

 新しいパートナーも作れなかった。



 うん?

 まぁ違和感があるだろうが聞きたまえ。



 実は彼女は病気を抱えていたんだ。

 恋人に心配をかけられないと、泣く泣く別れたんだ。

 それから彼女はとても苦労してね。

 父親が倒れて、経済的にも大変だった。

 そんなとき、彼女を愛しているという男性Bが現れた。

 実は彼女もずっとパートナーの事が忘れられずにいたんだが、それはもう過ぎた事だと思うしかなかった。

 病気の事も、経済的な事も支えてくれる男性Bに、彼女は甘える事に決めた。

 そして結婚が決まったとき、元の男と再会してしまうんだ。



 ふたりはね、愛し合っている。

 運命はふたりを引き裂くことはできなかった。

 彼女を愛していた男性Bも、彼女のことを想って身を引くのさ。

 そして皆に祝福されてふたりは結婚できた、という話だ。


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