星に願っても…。






今はカウンターごしに朝来たあのお客さんと談笑中…。



名前は矢野ユウヤさん。


同い年だって聞いてびっくりしたけど、話していると友達のようでとても落ち着いた。


星が好きっていう話で意気投合した。



ユウヤさんはタメ口でいいと言ったけど一応お客さんだし…。私は敬語で…。



ユウヤさんは昨日彼女にふられて気持ちをリフレッシュしようと思ってここに来たらしい。





「アハハッホントは俺が悪いんだけど…。」





「え?なんでですか?」



ズキン。頭に痛みが走った。




「俺、仕事忙しくて…。で、あんまりデートとかもできなくて…。その子の誕生日だって祝ってあげられなかった」




「なんか、べたですね…。」





「えぇ?アハハッ」





「あ、すみません。つい本音が…。アハハッ…。でも、仕事が忙しいのって正直仕方ないんですよね…。きっと。」





「そうなのかなぁ…。」





「はい。だって仕事ってなくなったら生きてけないですよ?でも恋人はいなくても生きていけちゃうんですよ…。」





「アハハッなんかね…。」





「フフッ」





他愛もない会話をしていたらどんどん時間は過ぎ、もう2時。





「お客さん来ないなぁ…。」




みんな今日はどうしたんだろう…。なにかあったか?なんちゃって





「いつもはもっとたくさんお客さんいるの?」





「うーん。多い時は5人くらい?この時間だと…。」





「でも、今日は俺だけだ…。」





「みんななにかあったんですかね…。…。ま、こういう日もありますよね」




ズキンズキン…。まただ。




今日は、なぜか頭が痛い。ズキンと痛む。





「じゃぁ、キラさんもゆっくりしたら?ずっと立ってたら疲れない?」





「んー。じゃぁ、ちょっとだけ…。」




一応仕事中だし…。って思ったけど頭も痛いし、少し座ろう。





コーヒーを淹れてカウンターから出てユウヤさんの隣に座ろうとしたとき



ズキンッ




「うっ…。」



ガシャンッ



今日一番の激痛が頭を走った…。




コーヒーも落としてしまいカップも割れてしまった…。




ズキンズキンズキン…。




「だ、大丈夫!?」




「…ぅ…はい…。」




ユウヤさんは私を支えて椅子に座らせてくれた。




「大丈夫じゃないでしょ…。」





「だい…じょうぶです…。それより!コーヒーかかってませんか?」





「かかってないよ。大丈夫。」




ズキンッ…。




「ぅ…。」




「本当に大丈夫?さっきから辛そうだけど…。」




「はい…。」




はぁ…。なんでこういうときに限ってこんなふうになっちゃうんだろう…。




痛みが走ったとき、誰かの笑顔が見えた気がする。楽しそうで優しい笑顔…。なつかいし気持ちになった。




「よくあるの?」




「え?」




「あぁやってなること…。」




「うーん。偏頭痛はよくあるんですけど…。今日のはちょっと違いました…。」




「やっぱ、大丈夫じゃない。無理したらダメだ。今日は店閉めたりできない?」




「いや…。それは…。」




さすがにどれだけお客さんが来ないといってもまだ2時だし…。8時閉店なのに…。





「でも、家で休みなよ。今日だけは…。」




ユウヤさんが私の肩をつかんだ。



ズキンッ




「ぃっ…。」




まただ…。もう…。何なんだよ。



ギュッ



「え?」




私はユウヤさんに抱きしめられていた。





「ユウヤ…さん?」





「…。」





「ユウヤさん?」





「あ、ごめん!車近くに停めてあるから、送ってくよ」




ユウヤさんは私をはなし、何事もなかったように言った。




「いや…。そこまで迷惑かけるわけには…。」




お客さんにそこまで迷惑かけるとさすがに私だって罪悪感というものを感じる…。




「いいよいいよ。今日は早くから店開けてもらったわけだし。」




ズキンズキン…。



正直この頭痛で自転車をこいで家までたどり着ける自信がない…。



「すみません。おねがいします…。」




「よし。じゃぁ、車まわしてくるからちょっと待ってて。」





「はい…。」






カランカランカラン。



はぁあ…。なんでこんなことになってるんだよ…。



ユウヤさんのコーヒーカップを洗ってから、割れたカップを掃除していた。

そうしたら丁度車の近くで止まる音が聞こえた。









カランカランカラン…。



ユウヤさんが店に入ってきて雑巾がけをしている私を見て呆れたように言った。


「あ、何やってるんだよ…。安静にしてないと…。」




ズキンっ


まただ…。



誰かの優しい笑顔が浮かぶ…。


その笑顔はかすれていてよく見えないけれど、優しい笑顔だということだけは分かる…。


これは私の記憶なの?




「ほら。後は僕がやるから…。」




そういってユウヤさんは私が持っていた雑巾を取って床を拭いてくれた




「あ、ごめんなさいっ。そんなことまで…。」




「はい。終わったよ。じゃ、車そこにあるから」





カランカランカラン…。



ガチャリ。

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