星に願っても…。
午後2時。カフェに着いた。
そこには昨日見た篠咲ハジメがいた。
「あの…。」
声をかけると篠咲は
「どうぞおかけください。」
篠咲は笑顔だった。
俺が席につくと
「キラ、大野キラはあなたが知っている仲島リナと同一人物で間違いありませんよね?」
そう問いかけてきた。
「…。」
何も言えなかった。
「残念ながら…。間違いないのです。まず、その現実を受け入れて…。」
「分かってます。」
篠咲の言葉を遮るように声を絞り出した。
俺だって知っている。分かっている。酷な現実を受け入れたくないだけで…。
あの日のリナが忘れられないだけで…。
篠咲が何を考えているのか分からない。
「じゃあ、聞きたいことがあればどうぞ。」
一番に聞きたいこと…。
「リナは…。大野キラさんは今、幸せですか?」
殺人犯が幸せな訳がない…。そんなこと分かってるけど…。
自分以外の人間の口からリナは幸せに暮らしていると聞いて少しは安心したかった。
「いいえ。」
「え…。」
篠咲は顔色一つ変えず答えた。
「あなたは刑事さんですよね?なら分かるはずです。殺人犯が幸せな訳がないじゃないですか。ましてやあの性格です。優しくて繊細な…。あなただってご存じではないのでしょうか…。」
「はい…。」
この人はなにもかもを見透かしている。こんな未熟な自分が勝てる相手じゃない。
「でも、トワといるときは少し本当の自分に戻っているのではないのでしょうか…。キラはいまだに彼が実の兄だと思っていますから、トワが今のキラにとっては唯一の家族なんです。」
その話をする篠咲の目は優しく穏やかだった。
「あなたは…。あなたは…。そんな二人のことを救おうと思ったことはないんですか?!」
なぜか怒りの感情が芽生えた。
優しいそのまなざしはきっと二人に向けられたもの。
そんなに二人のことを大切に思っているのであれば、いくらでもその仕事をやめさせることができたはず…。
それなのに…。
「だから今日あなたに会おうと思ったのです。」
「は?」
「あの子たちはただ裏の悪人を処分しているだけではないんですよ。親の敵を討とうとしているんです。」
「かた…き…。」
「トワは両親を殺されたんです。ずっと前に。その犯人はきっと裏社会にいます。それでトワは…。キラは両親の敵…というより…。トワを守るためといいますかね…。あの子にはトワしかいないんです。」
「そんな…。なんで…。」
「トワをかばうつもりはありませんが…。トワは最初猛反対したんです。同じ仕事に就くことを…。でも、キラはかたくなにトワと同じ仕事をするんだと…。トワのいうことを聞かなかったんです。」
優しさはときに残酷なものになるということを初めて知った。
きっと二人の間にはどんな理由であれ絆というものがあるんだろう…。
「あなたは…。キラを救いたいですか?」