コンプレックスな関係
第14話 ー貴弥ー
『好きだった』
莉生と美和が出て行ったドアが閉まると、俺はその場に座り込んでしまった。
なんなんだよ……
なんで今更そんなこと。
高校時代。
確かに俺は莉生に、好きだから付き合って欲しいって言われた。
それは覚えてる。
莉生本人は全く気付いてなかったけど、あの頃、莉生に憧れていた野郎は多かった。
女性にしては少し高めの身長と整った容姿は、美人と言うに相応しかった。
おまけに成績優秀、運動神経抜群、適度に賑やかで、でもいつも冷静で落ち着いてて。
大人びた莉生は校内の野郎の間では、高嶺の花なんて言われていた。
莉生から告白された時は、ラッキーって思った。
学校でも特に人気のある女子と付き合ってるなんて、いい気分だし。
そんな気持ちでOKした俺。
付き合ってみると、莉生いつもどこか冷めた目で俺を見ていた。
初めて浮気した時も、莉生は。
「程々にしないと、そのうち女の子に刺されるわよ」
そう言って苦笑しただけだった。
好きだなんて言われたことは、どうでも良かった。
莉生を連れて歩く優越感は快感だった。
それに飄々としててクールな莉生なのに、その隣はやけに居心地が良かった。
だから、莉生が何も言わない限り、別れるつもりはなかった。
あの凶暴な兄貴が現れるまでは。