コンプレックスな関係
そんな俺に莉生はこれでもか、というほど冷たい視線を寄越した。
「はっ?、じゃないわよ。携帯ロックくらい掛けておきなさいよ。貴弥の番号から掛かってくるから、こっちも出ちゃうじゃない」
「す…すいません」
あまりに冷たい視線に、素直に謝罪の言葉が出た。
「悪かった」
俺が非を認めるのが珍しかったのか、今度は莉生が驚いた顔をして。
だけどその驚いた顔が俺に向けられたものじゃないことは、すぐにわかった。
「兄貴……」
莉生の瞳は、俺の後ろに向けられていた。
「莉生。今の話はどういうことだ」
俺の後ろから、低く、怒りに満ちた声がして、俺は振り返って……
「きゃぁぁぁっ!」
「兄貴⁉」
気付いたら、床に倒れていた。
殴られたのだと気付いたのは、頬に強烈な痛みを感じたから。
「彼女の振りをしてるだけだから!」
なおも俺に向かって拳を振り上げた男を、莉生が必死に抑えていた。
「こんな奴と関わるな」
そう言って、その男は俺を殺しそうな眼で睨むと、莉生の腕を引っ張って出て行った。
「貴弥っ!」
莉生の声が、やけに耳についた。
その後、莉生からメールがきた。
『怪我、大丈夫?兄貴が殴ってごめん』
絵文字も顔文字ない、女にしては素っ気なくて、でも莉生らしいメール。
だけど俺は莉生を手離した。
……自分が酷く惨めに思えた瞬間だった。