コンプレックスな関係
さて。
どうしてこんな早朝に貴弥と喫茶店にいるかといえば。
気持ちと一緒にメールを削除した1時間後に、貴弥から電話が入り。
電話を無視したらメールが届いて、もちろん返信なんてする気なんてなくて、だけど貴弥はそれを見越したように勝手に場所と時間を指定された。
……無視すれば良いのに、そこまで割り切れなかった私。
故に、今のこの状況。
やっぱり無視すれば良かったと、心底思う。
「貴弥、ここの格変化違ってる。ーーあぁっ!もうっ!ここの訳、意味が反対になってるから!」
さすがにレポートを丸写しはさせられないから、貴弥が日本語で書いたレポートをロシア語に翻訳する。
因みにテーマは、日本文学史におけるロシア文学の影響。
「あのさぁ?前に言ったよね?ロシア語はキリル文字と格変化を頭に入れたら、日本語と同じ感覚で使えるって」
英語や仏語独語は、ラテン語を語源としていて、発音も似ているし、語順が大事だったりするけど、ロシア語は文字も発音も英語ーーつまりはラテン語なんだけどーーとは違うので、考えようによってはとても覚え易いと言える。
ロシア語は語順にあまり意味がない。
つまり、単語とその単語の格変化さえ覚えれば、日本語と同じように使える言語と考えても間違いではない。
まあ、日本における外国語教育は英語が基本なので、いきなり発想を反転させるというのは難しいのかもしれない。
多分、物事を理論的に捉える人なら、難しい言語ではないと思う。