コンプレックスな関係
「大丈夫?もしかして悪酔いした?」
トイレを出ると、高良君が壁に寄りかかるようにして立っていた。
「平気。慣れなくて疲れただけだから」
私はあくまでも素っ気なく答える。
本来はお礼を言うべきなんだろうけど、生憎と貴弥以外の男に振り撒く愛想はない。
高良君の横を通り過ぎようとしたら、腕を掴まれた。
今日はよく掴まれる日だな……。
「待ってよ、篠井。俺のこと覚えてない?」
高良君の声が酷く切なくて、私は思わず足を止めてしまった。
「高良なんて知り合いは居ないわ」
心の端っこに引っ掛かるものを感じながら、私は事実を伝えた。
「じゃ、瑞原って言ったら思い出してくれる?」
瑞原。
瑞原…陽典?
陽典君。
……忘れるわけがない。
硬直した私を見て、高良君は苦笑を漏らした。
「久しぶり。中学以来だよな?俺、名前聞いてすぐ思い出したよ」
少しだけ切ない笑顔。
私の脳裏に、中学時代の彼の笑顔が蘇る。
あの、初恋とも呼べなかった、初恋の相手。
なんで……
なんでこんなとこで…… 。
運命の神様は意地悪だ。
兄貴の帰省といい、今日の合コンといい。
全ての出来事が、私の未来を悪い方へ誘っているとしか思えなかった。