コンプレックスな関係


「大丈夫?もしかして悪酔いした?」


トイレを出ると、高良君が壁に寄りかかるようにして立っていた。


「平気。慣れなくて疲れただけだから」


私はあくまでも素っ気なく答える。


本来はお礼を言うべきなんだろうけど、生憎と貴弥以外の男に振り撒く愛想はない。


高良君の横を通り過ぎようとしたら、腕を掴まれた。


今日はよく掴まれる日だな……。


「待ってよ、篠井。俺のこと覚えてない?」


高良君の声が酷く切なくて、私は思わず足を止めてしまった。


「高良なんて知り合いは居ないわ」


心の端っこに引っ掛かるものを感じながら、私は事実を伝えた。


「じゃ、瑞原って言ったら思い出してくれる?」


瑞原。


瑞原…陽典?


陽典君。


……忘れるわけがない。


硬直した私を見て、高良君は苦笑を漏らした。


「久しぶり。中学以来だよな?俺、名前聞いてすぐ思い出したよ」


少しだけ切ない笑顔。


私の脳裏に、中学時代の彼の笑顔が蘇る。


あの、初恋とも呼べなかった、初恋の相手。


なんで……


なんでこんなとこで…… 。


運命の神様は意地悪だ。


兄貴の帰省といい、今日の合コンといい。


全ての出来事が、私の未来を悪い方へ誘っているとしか思えなかった。

< 42 / 127 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop