コンプレックスな関係
「あのさ。ちょっと話したいんだけど、2人で抜けようぜ?」
そう言って、陽典君は左手に持った私の鞄を見せた。
「いや、私帰るし。鞄、もらっていい?」
心がざわつく。
このまま陽典君と居たらいけない気がする。
頭のどこかが激しく警鐘を鳴らしていた。
「鞄、ちょうだい」
もう一度、さっきより強く言った。
だけど陽典君は。
「やだね。篠井が俺と話す時間を取ってくれるなら、返してあげるよ」
楽しそうなのに、切なそうに笑う陽典君がいて。
だめ。
ここで流されたら駄目だ。
「私には話すことなんてない。中学の同級生に会えたのは嬉しいけど、それだけのことだもの」
「変わってないのな、篠井。愛想はないのに、人の感情に敏い」
「愛想がないのは認めるけど、人の感情に敏いっていうのは買い被りでしょ」
「そんなことないさ。今だって篠井は警戒してるだろ?俺の話がなんなのか予想がついてる」
……話しの内容なんて予想つかないよ。
分かるのは、陽典君と居たら危険だということだけ。
「陽典君の思い過ごしでしょ。早く鞄返して」
早く。
早くこの場所を離れなきゃ。
「わかった。じゃ、ここでいいよ」