コンプレックスな関係
久しぶりに穏やかな時間を過ごしているような気がした。
だけど、こういう時間は大概長く続くものじゃない。
「莉生さん?」
ほらね。
嵐の前触れ。
掛けられた声に振り返ると、美和ちゃんがいた。
「美和ちゃんっ⁉」
私は思わず立ち上がる。
「お久しぶりです!偶然ですね!」
笑顔で駆け寄ってくる美和ちゃん。
「莉生さん」
「ん?」
「お兄ちゃんのこと、本当にすいませんでした」
「へ?」
なんで美和ちゃんが謝るんだろう?
「お兄ちゃんとは会いました?」
いきなり話が飛んだな、おい。
「会ってないよ。貴弥だって会いたくないでしょ」
自分で言っておいて、胸が痛くなる。
「私が聞く事じゃないと思うんですけど……莉生さん、まだお兄ちゃんのこと好きですか?」
美和ちゃんが、伺うような目で見上げてくる。
どう答えるべきなんだろう……。
私が何も言えずにいると、美和ちゃんがにっこり笑った。
「今度、莉生の時間に余裕がある時で構わないので、相談に乗ってもらえますか?」
またもや唐突。
美和ちゃん、何を考えてるんだろう?
「いい…けど…」
「じゃあ、またメールしますね!」
「あ、うん」
「それじゃあ、失礼します」
莉生ちゃんは来た時と同じように、ぺこりと頭を下げて、店の入り口で待っていた友達らしき女の子と出て行った。
「篠井。俺のこと完全に忘れてない?」
……しまった。