コンプレックスな関係
……えっと?
事情がさっぱりわからないのだが。
でも美和ちゃんの慌て具合は尋常ではない様子で。
仕方ないなぁ…。
貴哉とは関係なく、私自身が美和ちゃんを可愛いと思っているわけで。
『ごめん。急用で行かなきゃいけないトコできた』
席に戻った私は、陽典君に両手を合わせて謝った。
「それって、男?」
陽典君の声が低くなった。
どう答えるべきなんだろう。
電話をくれたのは美和ちゃん。
でも原因は貴哉。
「…女の子だよ。なんかトラブってるみたいで……」
一瞬の迷いの後、私は嘘じゃないけど真実でもない言葉を告げた。
「俺も一緒に行こうか?」
それは陽典君の優しさからくる言葉なんだろう。
でも、その優しさに甘えることはできなかった。
「大丈夫。女の子同士での話だから」
今度こそ、私は嘘をついた。
陽典君の優しさに甘えて、陽典君を無駄に傷付けるようなことはしたくない。
これは私の、私個人のこと。
「あーあ。せっかく楽しかったのになぁ…。ごめんね?」
楽しかったのは嘘じゃない。
紛れもない本心。
それだけは、間違いない。
「俺が行っても、できることはない、か…」
淋しそうにグラスを傾けた陽典君。
そんな彼の気遣いに、申し訳なく思う。