オートフォーカス
よくよく考えるまでそんなこと気付きもしなかった。

「この前も雅之くんに指摘された時、表面上は何でもないように受け止めてたけど…本当はそうじゃなかった。また友達を失うんじゃないかって後悔していたと思う。」

あの時の仁美にそんな感情があったなんて篤希は知る由もなかった。

気にしてはいたと思うが、それでも明るく受け止めていたように見えたから。

彼女は強いんだなと、勝手にそう思ってしまったのだ。

もしかして軽はずみなことを言ってしまったのではないかと篤希は不安になってしまった。

しかしその不安はすぐに解消される。

「篤希くんにああ言って貰えて本当に嬉しかったって言ってた。特にあの後の言葉は仁美の心を救ったと思う。」

「あの後の言葉?」

さすがにそれは思い出せなかった。

しばらく目を宙に泳がせて考えてみたがやはり一欠けらも出てこない。

自分が放った言葉にこれほど責任を持っていないのかと焦るくらい篤希は必死になって思い出そうとした。

何か変なことを言ったのではないかと焦る篤希を見つめて絢子はクスクスと笑って大丈夫と微笑む。

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