オートフォーカス
撮影の舞台となったお好み焼きの屋台から法被を来た女性が券を差し出してくれる。

“バスケ部出店・お好み焼き屋割引券”

既に撮影モードから営業モードに切り替わったメンバーは大きな声で客寄せを始めていた。

メガホン持って声をより遠くまで飛ばしてとりあえず行き交う人々の気を引こうとする。

さすがは体育会系、しかし他の部の店舗も負けてはいない。

考えることは皆同じ、やることもまた皆同じ。

どこの野球観戦かと思うくらいメガホンの音が飛び交っていた。

よく見るとばっちり球団名が書いているではないか、使い慣れているし気合も入る訳だと静かに納得する。

長居は無用、カメラを持ったまま会釈をすると篤希は差し出された割引券を受け取った。

「ありがとうございます。」

もう何枚目か分からない割引券をポケットに入れると篤希はその場から立ち去った。

次はどこのエリアに行こうかと冊子を広げて人の邪魔にならなさそうな場所で一息をつく。

担当サークルの撮影はノルマのようなものだ、写真の出来をもう一度確認すると自分用の担当一覧にチェックをいれた。

「バスケ部クリア…っと。」

孤独に仕事を進める篤希の前を小学生くらいの子供が走っていく。

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