オートフォーカス
あまり意識したことはなかったが、そういえば母親がよく広告を見ては騒いでいたのを思い出した。

一際大きな広告を開いて丸をつけて、そして最後に篤希の方を見て怪しい笑みを浮かべる。

昔は事あるごとに付き合わされたものだ。

「そうそう。展示会や時計だって昆虫だって来るんだよ?あとはお中元お歳暮に。特設会場だとバレンタインやらホワイトデーやら、イベントをいち早く体感できて得した気分。」

楽しそうに話す加奈に篤希も自然と笑みがこぼれる。

どうやら長く続けているバイトのようでそれなりに思い入れもあるようだった。

やりがいも感じているのだろう。

「いいね。カレンダーを見た時、予定がつまってるみたいだったけど全部そのバイト?」

篤希の言葉に加奈は一瞬固まったが、怪しまれない程度に自分を取り戻すと納得したような声を出した。

「ううん。他にも塾の講師と家庭教師と。時給いいからね。」

「成る程、合理的。」

同じ時間を費やすなら出来るだけ高い給料のがいい、彼女の言い分は感心するものだ。

しかし篤希には少しの違和感が残る。

ほんの僅かだが加奈の表情に陰りが出た気がしてならなかったのだ。

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