オートフォーカス
「カナ…?」

「そう、加奈。あ、着いた。行こう、篤希。」

そう言って加奈は忙しく電車から降りた。

ホームに立って篤希の方を振り返る、風になびく髪やスカートが不思議とスローモーションのように見えた。

やばい、その短くも全てを凝縮した言葉を心の中で呟く。

ざわざわする気持ちを抑えるように息を吐くと篤希も続いてホームに降りた。

「実はさ、笠坂くんって言う前にいつも一呼吸おいてたんだ。咬んだら悪いと思って。」

「知ってた。」

「あはは、ごめんね。でも今からは楽できるわ。ね、篤希。」

また篤希の名を呼んで加奈が笑う。

「篤希、篤希。あー言いやすい。」

「安売りみたいに…。」

「カッコいい名前だね、篤希。」

名前を呼ばれただけなのに篤希の鼓動は高まっていた。

落ち着け、そう自分自身に言い聞かせながらも問いかける。

一体どうしたというのだろう、身に覚えがあるような感覚に篤希は焦りを感じていた。


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