オートフォーカス
彼女は楽しそうに笑っているのに、いつもこうやって振り回されて悔しい。

「わりと駅から近くにあるみたい。」

加奈がそう言ったように目的地である図書館は徒歩で行ける距離にあった。

道中他愛のない話をしながら、初めて訪れた場所に少し興奮して新鮮な空気を吸い込む。

ここの街頭は少しレトロだ、街路樹がきれいに並んでいる、自分たちが住む街との違いを感じて篤希たちは旅行気分を味わった。

おそらく図書館はこの街並みにあったように造られたのだろう。

植栽の向こうに見えた図書館はそれだけで訪れた人の気持ちを高ぶらせるような効果があった。

敷地に入る前から篤希はカメラを構えシャッターをきる。

とりあえずの1枚撮って改めて図書館を眺めた。

シャッターを押したことによって興奮した気持ちが一旦静まったような感覚になる。

「どう、気に入った?」

「うん、凄く。」

声だけで答え、篤希の視線はまっすぐ図書館から動かなかった。

加奈はそんな篤希を微笑ましそうに見つめると、何も言わずにその場から離れて図書館に向かう。

< 138 / 244 >

この作品をシェア

pagetop