オートフォーカス

3.おかしいな

あの日。

無意識のうちに撮ってしまった1枚の写真。

加奈を映した写真の存在は、篤希の中で大きな意味を持ち始めていた。

撮り直した写真にはない意味と感情がそこにはある。

衝動しか言いようがなかった。

まさか自分がそんなことをするなんて。

あれ以来、篤希は自然と加奈を目で追うようになっていた。

不思議と、それこそオートフォーカスのように加奈の存在を遠くからでも見つけることが出来るのだ。

目が合えば笑って手を振ってくる加奈、自分自身で整理できていない気持ちの篤希には何でもないように手を挙げて答えることが精一杯だった。

意識してしまう行動と表情に心が落ち着かない。

少し距離を取った方がいいのかもと思ったがそうはいかなかった。

去年もそうだったが今年もいくつか同じ講義を受講していることを発見する。

好みが似ているのだろうかと勘違いさえしそうになった自分の頭を叩いた。

少しずつ加奈の存在が自分の中で特別なものになっているのだと篤希も気付いていたし認め始めている。

でもそれを惑わすものが篤希にはあった。

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