オートフォーカス
しかし気持ちは素直で、加奈に近付きたいと当たり前のように思うようになった。

そう自分の気持ちが落ち着くまで時間はかかってしまったけど、それでいい。

雅之や裕二とではなく1人で受講している授業では機会があれば彼女の隣に座り一緒に受講するようにもなった。

隣という絶妙な距離感が篤希の感情を動かして仕方がない。

それも心地いい感情だ、離れて座っていても自然と一言二言は会話するようにもなっていた。

近く、濃くなっていく関係に嬉しくなるのは当然の感情だ。

今まで外に出なかった自分が加奈によって解放されていく感覚もある。

面倒な課題を出され、苦々しい表情を浮かべると退室する途中の加奈が笑った。

「面倒くさそう。」

目が合うなり言われた言葉に疑問符を浮かべる。

頭がついていっていない篤希を見て加奈はまた笑った。

そして前に書かれたままの課題のテーマを指して視線で訴える。

「え?」

「顔に出てるよ。」

そう言われただけなのに、篤希は恥ずかしくなって口を手で覆い隠した。

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