オートフォーカス
例えどんなに疲れていたとしてもこの瞬間だけは解放されて気分が上がったのを思い出す。

去年もこうして1人で空を見上げ解放感に浸っていたのだ、今年も同じような気持ちだった。

「いよいよ最後か。」

どこからか聞こえてきた声に胸が重たくなったような気がする。

篤希の仕事はまだ終わってはいない、むしろここが折り返し地点なのだということを思い出した。

「やるか。」

そう呟いて篤希はカメラを構え最後の仕事を始める。

打ち上げ花火を見上げる人々の表情は明るく、笑顔を撮ることで自分も笑顔になっていくのが分かった。

達成感と解放感と、そして寂しさの感動から涙を流す人も少なくない。

ある程度撮影を終えると1人賑わいから離れて篤希は腰を下ろした。

今年も終わった、そう心の中で呟いて心地よい疲労感に浸る。

現像や選別など仕事は残っているが学祭は終わっていくのだ。

もう幕はほとんど下りてただ見送るだけになっている。

ぼんやり周りの景色を見ていると絢子がジュース片手に近付いてきた。

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