オートフォーカス
聞こえていても理解するのに時間がかかる、いや、理解していても信じていない方なのかもしれない。

素直に受け止められず篤希は思わず聞き返してしまったのだ。

絢子の思いが全力でぶつかってきているのを感じる。

「私、篤希くんのことが好きなの。」

篤希は目を大きく見開いて言葉を失ってしまった。

絢子の目は篤希を捕らえて離さない、その仕草は冗談ではないと強く訴えている。

まだ周りは祭りの最中だというのに何も耳に入ってこなかった。

思考も止まっている、聞き返しの短い言葉でさえ篤希の声は出そうになかった。

瞬きさえも出来ていなかったのではないか。

そんなに長い時間ではなかったと思う、しかし待っていられなかった絢子は手を少しずらして身を乗り出し篤希に近付いた。

顔が近付いたこの先に何があるかは感覚で分かる。

固まっていたままの篤希はそのまま受け入れるように思われた、しかしほんの僅かだが篤希はその瞬間に絢子から体を離したのだ。

それは篤希の思考が回る前の体が示した無意識の反応だった。

微かな反応、しかし確実に彼は後ろへと身を引いた。

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