オートフォーカス
カメラを手にして景色を写すようになってから篤希には今までとは違う感情が芽生えていた。

流すように見ていた景色も違った気持ちで見れるようになったこと、それは自分にとってとても大きな変化だと思っている。

異国に行ったらきっともっと自分の世界が広がるだろうと予感しているのだ。

「じゃあ一緒に行こうか！なんて…。」

「いいよ、行こう。」

軽いノリで誘う加奈に篤希はかぶせるように返事をした。

真剣な表情の篤希に加奈は目を大きくして固まる。

意外な答えだったのかその早さに驚いたのか分からないが言葉を失う加奈は珍しかった。

しかし少しの間をおくと、彼女は微笑み宙を見上げて唸り声をあげる。

「うーん、ドイツは寒いよ？たくさん着込まないと！グリューワインだけじゃ温まらないからね。」

明るく笑う加奈はすっかりいつもの調子を取り戻っていた。

「さっきから思ってたけど色々詳しいね、グリューワインって？」

少しずつ空の明るさがなくなり、マーケットの灯りやイルミネーションが輝き始め気温も下がってきた。

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