オートフォーカス
「手。はぐれるといけないから。」

握っては開く動作をすると篤希はもう一度手を出すように促した。

加奈は遠慮がちに手を差し出す、すると篤希は加奈の手を力強く握って少し引っ張った。

「行くぞ、走れ！」

「わっ！」

強く引っ張られた手に引かれて加奈も雨の中に飛び込んでいく。

どれくらい走るのか分からなかったが、とにかく篤希のペースに合わせて進むしかなかった。

しかし有り難いことに意外と近くに篤希のアパートがあったようだ。

もう無理だとギブアップする前にアパートの軒下に滑り込み膝に手をあてて呼吸を整える。

加奈がそうしている間に篤希は部屋のカギを開けた。

ドアを開けて部屋の灯りをつけると加奈を中に入れる。

「大丈夫？」

「うん、大丈夫。」

玄関でまだ息を整える加奈を残して篤希は部屋の中に入っていった。

びしょ濡れのアウターだけを洗面台に放り投げていそいそと部屋の中を動き回っている。

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