オートフォーカス
加奈の文字に、横に並んで講義を受けた記憶が甦る。

綺麗な字だと褒めた言葉に、加奈はありがとうと微笑んだ。

そういえば番号を交換した時に住所のデータも入っていたと加奈が言っていたのを思い出す。

加奈の世界は充実しているようだ。

篤希の生活は変わらない、でも相変わらずカメラは撮り続けている。

加奈の知らない自信作を1枚同封して、柄にもなく彼女と同じ様に手紙で返事をした。

それが始まりだった。

不定期に繰り返す手紙のやり取り、加奈とはそれ以上何も進展することがなかった。

この関係もいずれ無くなるのだろう。

そんな考えが頭の端に過りながらも加奈からの連絡が嬉しくてたまらない。

勉強に追われ始め、余裕がなくなりそうなときに読み返す手紙は精神清涼剤みたいなものだと篤希は苦笑いをする。

彼女も頑張っているのだ。

楽しいことばかりではないだろう、それでも手紙には楽しかった出来事しか書いていない。

過去を懐かしむような言葉もほとんどない。

根っから前向きな加奈らしい明るい文章ばかりだった。

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