オートフォーカス
連絡は手紙だけ、お互いにメールや電話のやり取りはなかった。

忙しかったというのもある。

院を目指すと決めた時から勉強量はかなり増えた、でもバイトを減らすことはしない。

親に甘える訳にはいかないのだ、決めたからには自分で背負わないといけない。

それは自分で決めていたことだった。

高額になる学費も自分で用意しなければ。

篤希はいつか加奈から聞いた話を思い出して時給の高いバイトを中心に回すようにしたのだ。

柄にもなく始めた家庭教師や塾のバイトは思いのほか自分にも役に立っている。

中高生に教えることで物事の基礎を再勉強するのは自分にとってプラスになることだった。

思い立った時が一番やれる時だと動き続けて過ごした日々、夏休みの旅行の話が出た時はもうそんな季節かと驚いたくらいだった。

余裕がない訳ではないが常に追われているような感覚はある。

だからだろう、すぐに返信しなければいけないと焦るメールやかけ直さなければいけないと負担になる電話じゃない、自然とできるタイムラグの手紙が今の自分にはかなり合っていた。

なにより忘れた頃に来る連絡ほど心踊らされるものはないのだ。

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