オートフォーカス
一人暮らしのポストに入っているDM以外の郵便物は珍しい、それが心許せる相手からの手紙なら少し照れくさいが嬉しいのだ。

全て忘れて封を開けることに集中する、そんな時間もとても愛しかった。

そこから離れたら残念ながらまた闘いの中に身を投じるのだ。

「おやおや?今日も頑張ってるみたいね。」

突然かかった声の懐かしさと衝撃に篤希は思わず顔を上げた。

「ビックリした。仁美?」

空き時間に図書室で勉強をしていると通りがかった仁美が篤希の肩を軽く叩いたのだ。

「最近いないと思ったら、ずっと図書室で勉強してたんだね。雅之も?」

不自然に空いている隣の席に目をやって仁美が首を傾げる。

ご明察、さっきまで確かに篤希の横には雅之が本を開いて勉強していたのだ。

「いま授業中。」

「そっか。ね、息抜きしない?」

彼女が指した方向はいつもの場所だった。

篤希は微笑んで頷くと仁美に付いて食堂に向かった。

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