オートフォーカス
それはいつか絢子がくれた飴、この2人は食べ物の好みが似ているようだ。

「絢子なら大丈夫よ。だから気にせず、これからも宜しくね。」

「こちらこそ。」

篤希の答えに仁美は笑った。

変な男に捕まらないように目を光らせるのが自分の役目だと息巻いて手を振って去っていく。

ひと時の休息は張りつめていた篤希の気持ちをいい方向に解してくれたような気がした。

そしてまた勉強の日々が続く。

大学生活は人生で一番自由な時間だと豪語する裕二に誘われ、何度となく遊びに連れ出されたりもした。

絢子と会っても前のように何も変わらずに話をすることが出来る。

彼女の中で消化されたようだった。

新しく好きな人でも出来たのだろう、少しだけ変わった服の好みと雰囲気に寂しさを感じたことは誰にも言えない。

そうして時は過ぎ、加奈との関わりも希薄なものになっていた。

加奈は専門学校を卒業しても神戸に留まり就職をすることに決めたらしい。

あの時の感情の高まりはないが、加奈との手紙のやり取りはかろうじてまだあった。

彼女の字を見るだけで、言い様のない暖かな気持ちになる自分に苦笑いをする。

それは加奈も同じだったのだろうか。

送りあう手紙がそれを物語っていた。

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