オートフォーカス
いま、この時間を楽しもう。

デートなんて大げさなものじゃないけど、2人で行った図書館はずっと忘れない。

テーマパークも忘れない。

クリスマスマーケット、一緒に行こうって言ってくれたこと。

一生忘れない。

あなたと語り明かした夜も忘れない。

真剣に私のことを心配してくれたその優しさも、忘れない。

でも最初で最後のキスは、忘れようと思う。

まだ思い出に出来ないの。

ねえ、アツキ。少しは私のこと、好きでいてくれたかな?



声にすると涙が出そうで、篤希は心の中で加奈からの手紙を読み上げた。

違う。

もう涙で声が震え、とてもじゃないが言葉を発することが出来なかったのだ。

声だけじゃない、体も震えている。

知らなかった。

加奈が長い時間をかけてこんな言葉をくれていたなんて知らなかった。


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