オートフォーカス
腕時計を見ると約束までまだ時間はある。

今度はこの夜空をメインにマーケットを撮ろう、そう思ってカメラを上向きにした瞬間、篤希は思わず息を飲んだ。

またあの感覚。

篤希のオートフォーカスが作動したのだ。

「…あ。」

マーケットを楽しむ人の群れの中、探し求めていた人物がいた。

加奈だ。

加奈からのメッセージに気付いたあの手紙、返事を書くことに篤希は悩んでいた。

何て書けばいいのだろうか。

すぐ返事をするのもおかしな話だろうか。

手紙で返すのではなく電話をしてみようか。

気持ちが落ち着いた後で考えていたのはそれだけだった。

不甲斐無い気持ちが判断を鈍らせ優柔不断にさせる。

しかしそんな情けない時間を過ごしたのはごく僅かな時だった。

会いに行こう。

この結論が出るまでそんなに時間はかからなかったと思う。

ではいつ会いに行こうか。

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