オートフォーカス
そう考え始めた時、何となく頭に浮かんだことがあった。

どうせなら、きっかけを作ろう。

残念ながらすぐには動けない。

篤希にも卒論の提出があるし、いろいろやらなければいけない課題もあるのだ。

考えながら日々を過ごすうちに今回のイベントのことを知った。

期間限定で神戸にクリスマスマーケットが開催される。

だから篤希は加奈に手紙を書いたのだ。

今日の午後7時にクリスマスマーケットで待っていると。

篤希は静かにカメラをおろし、加奈を目で追っていく。

手紙での一方的な約束に加奈は来てくれるのか不安だった。

加奈には加奈の予定がある、そんなのを一切無視して送り付けた手紙に当然のことながら加奈からの返事はなかった。

携帯が鳴ることもなかった。

不安と緊張と共に篤希は1人神戸にやってきて写真を撮ることで気を紛らわせていたのだ。

それは雅之からの電話でかなり緩和されたのだが、加奈を見付けた今、心臓はまた痛いぐらいに動き出し吐きそうなくらい緊張してきた。

「やば…吐きそう。」

小さな声で呟くとまた深呼吸をする。

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