オートフォーカス
さっきからなんてこと言うのだと完全に頭の中はぐるぐる回っていた。

睨むように見上げた相手は悔しいくらい余裕があるように見えているのにこっちは動悸が治まらない。

「篤希って…。」

「一応年頃の男なんで。余裕なんて全くないんだけど。」

「え!?」

加奈は驚いた。

てっきり余裕で誘ってきているのかと思いきやそうでないと漏らす篤希の表情はいつもと何も変わらない。

「早く返事を下さい。」

加奈のコートの裾を引っ張る篤希にますます力が抜けてしまった。

待っているのだ。

なんでもいいと言った加奈に対して出した要求は本当に通るのかどうか知りたいのだ。

「あはは。」

なんて可愛らしいのだろう。

加奈はコートの裾を引っ張る篤希の手を握って微笑んだ。

「ちゃんとエスコートしてね?」

「…頑張ります。」

満足の会話、2人は顔を合わせるとどちらともなく微笑んで歩き出した。

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