オートフォーカス
「あ、暑いね。篤希くんは調子どう?」

手で顔を扇ぎながら絢子は出来る限りの笑顔で篤希に問いかけた。

確か彼女はドリンク販売の担当だった筈、それでも店内の熱気で暑くなってるのかなと思いながら篤希はまた首を傾げた。

「うん、僕はまあまあかな。」

ポケットの中の担当一覧の存在を思い出して答えてみたが、達成のチェックは結構入れた筈だと心の中で何度か頷いた。

夏休みの宿題みたいなものだ、スタートダッシュが肝心。

初日の午前中からよく回った方じゃないだろうか。

開店前や早朝の様子も撮影できたことは自分の中では満足だった。

やるからには出来る限りのことをしよう、昨日までに腹をくくった篤希は朝早くから大学に入っていた。

そんなにはりきっている訳じゃないが、写真の出来の良さが講義の評価に繋がると思いたい。

「しっかし災難だよな。初めての学祭でまさかの記録係に任命されるなんて。」

雅之の言葉に絢子も苦笑いをしながら頷く。

「断りゃ良かったのに。まあ、無理か。あの教授の圧力には逆らえる気がしないな。」

「あの笑顔ね。」

雅之の意見に篤希と絢子も賛成だったようだ。

それぞれに目を泳がせて噂の教授の笑顔を思い浮かべる。

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