オートフォーカス
はしゃぐ女性の手を握る男性の顔もどこか誇らしげだ。

幸せそうな人たちの姿を見ると篤希の表情も自然と優しくなる。

そして気持ちが体を勝手に動かすのだ。

篤希は無意識の内に手にしていた愛用のカメラを構えてファインダーを覗いた。

レンズ越しでも神戸の夜景の美しさは変わらない、むしろ部分的に写す写真の方が魅力を増すのではないのかとも思う。

篤希はフォーカスを合わせて目の前の景色を絵の中に納めた。

これがいま、篤希が見ている景色。

シャッター音が心地よく耳に響いてカメラから顔を離す。

画面に表示された画像の出来を確認して口の端を上げた。

「…上出来。」

寒さから鼻をすすってしまうが、気持ちは満たされていた。

耳も痛いが関係ない。

いい写真を撮れた、これがスイッチになるのだ。

1枚めの出来に納得がいくと篤希の頭は撮影モードに切り替わった。

こうなったら寒さも周囲の視線も音も、何もかもが気にならなくなるのだ。

ましてや、ここは旅先の場所、解放感はより強い。

< 3 / 244 >

この作品をシェア

pagetop