オートフォーカス
こういうさりげない気遣いは滅多に出来るものではなく、そしてそれは篤希の心をくすぐっていた。

何かいいな、名前を付けにくいくすぐったい感情が篤希の中で広がっていく。

「そろそろ時間?」

そう言われ時間を確認すると、思いの外ここに長居してしまったことに気付いた。

ロスタイムは多ければ多いほど自分に負担がかかってくる。

「そうだね。じゃあ行くよ。前から皆を撮るから2人も入って。」

カメラを構える仕草をして2人を促した。

3人は立ち上がると、店頭で裕二の明るい声に迎えられる。

「あれっ?もう行く!?」

お祭り男が賑やかな格好で客引きしている姿は当たり前のようになっているらしい。

「うん。撮るから皆入って。」

「おーい、集合!」

裕二が集めてくれている間に篤希は全員が入るようにフレームを調整する。

フォーカスを合わせて、笑顔でポーズを取る仲間たちをファインダーの中におさめた。

「はい、撮りまーす。」

声を出して合図を伝える。

シャッター音が心地よく響いて被写体の表情も柔らかくなった。

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