オートフォーカス
気立てのいい絢子。

見た目も中身も清楚可憐な絢子に憧れる人は男女問わず多い。

指先までしなやかに見える彼女の動き1つ1つにいちいち心臓が反応すると誰かが言っていた。

彼の言葉を聞いた誰もがここにもライバルがいたと舌打ちをしたはずだ。

でも簡単に動くことはできない。

既に絢子は同じく人気の高い美人の仁美と一緒にいることが多いことからすっかり高嶺の花となっていたのだ。

自分じゃ相手にされないだろう、篤希もそう感じている人間の一人だ。

特別な人になれる自信なんてない、選ばれる訳がないのだ。

小さく芽生えた恋心は、この半年の間に仲のいい友人という位置を選んで落ち着いてしまった。

それでも未練がましく胸の鼓動は高まるばかり、やっぱりいいなと思ってしまうのは仕方ないのか。

「…今日はずっと忙しいの?」

呼吸が整った絢子は遠慮がちに見上げて様子を伺う。

「多分ね。記録係はきっと後夜祭が終わるまで休みはないよ。」

仕方ないと明るく笑って見せる篤希に対して絢子の表情は少し曇った。

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