オートフォーカス
「気負わずに自分なりにやってみるよ。」

それしか今は出来ない。

「そっか。じゃあ…また空いたら連絡してね。」

「分かった。」

勿論だと言う思いで強く頷く。

前に進もうと体を向けようとしたとき、また絢子から声がかかった。

「あの…雅之くんや裕二くんじゃなくても！…わ、私でもいいから。」

「え？」

その言葉の意味が分からず篤希は首を傾げる。

「あの…連絡…。」

「え？あ、うん。」

妙に力を入れて訴える絢子に首を傾げながら篤希は頷いた。

「ありがとう。それじゃ。」

絢子から受け取った物を掲げて篤希はまた足を進めていく。

１年と言えど記録係、むしろ１年だから記録係と言うべきだろうか。

今回、記録係に任命されたのは篤希だけではない。

自分以外の人間もため息を吐きつつ頑張っているのだと篤希は短く息を吐いた。

皆も楽しめているだろうか。

同じ不運に捕まった仲間同士、妙な絆が生まれているのだ。

打ち上げでは笑いながら話し合いたいと近い未来を想像して今の活力にする。

「いただきます。」

貰ったばかりの飴の封を開けて、１つ口の中に入れた。

絢子の優しさだからだろうか。

なんだか、いつもと違う味のような気がした。


< 36 / 244 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop