オートフォーカス

3.撮っていい?

2号館と言えば、篤希にとって因縁の場所とも言えるものだった。

そもそも今回の記録係になった理由がそこにある。

2号館の2階、渡り廊下で入ったそのフロアの一番奥の教室。

ほとんど人通りもない閑散とした展示会場に篤希はゆっくりと足を踏み入れた。

ズラリと並ぶのは何の工夫もされていないパネル写真の展示。

写真の下に名前が張ってある辺り小学生の作品の市役所展示のようだ。

そんなことを思いながら、篤希はまるで子供の作品を探すように部屋の中を歩き始めた。

ここにあるのは映像学の授業で撮影した写真ばかりだ。

その中でも教授が独自に選んだ優秀作品にリボンの花が貼られていた。

「懐かしいな。」

そのリボンの花の存在こそが小学生の作品展示に近付けているのではないか、篤希は苦笑いで呟きため息をついた。

なかなかの腕前、講義中にそう褒められ、悪い気がしなかったのはほんの数秒だったと思う。

その中から1年の名前が読み上げられ、有無を言わさずその場で学祭の記録員に指名されたのだ。

どこから絞り出したのか分からないような奇妙な声で疑問を発し、状況の受け入れを拒否してしまった。

その瞬間のことを思い出すだけでまたため息が出る。

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