オートフォーカス
やっぱり今見ても篤希にはその理由がよく分からなかった。

「私、建物の写真の方が好きなんだけど…この写真は凄く好き。鮮やかって言うか…あんまり上手く言葉が出てこないんだけどね。」

思うように気持ちを伝えられないもどかしさが加奈の手元や表情に出ていた。

空の青がいいのか、鮮やかな緑がいいのか、アングルがいいのか、収まりがいいのか。

ぐにょぐにょと呟きながら忙しなく宙を舞う手は的確な日本語を探している。

写真を指して、言葉が見つからず指を口許に戻して、待つ方もそうだが伝えたい加奈自身も随分もどかしいようだ。

「とにかく!凄いって、なんか気に入ったって思ったの。」

結局いい言葉が見つからず諦めたらしい。

ね、と自信満々に同意を求められて勢いに負けた篤希は思わず体を引いてしまった。

さすがは祭りの日。

構内を見て回ったが参加者のほとんどがこの勢いだったなと1人で感心する。

彼女の言葉を受け、そして改めて自分の作品を見つめた。

やはり何度見ても写真の絵は変わらないのだけど。

「あ、ごめん。興奮し過ぎた。」

自分のテンションに気付いた加奈は落ち着かせるように胸に手を当てて大きく息を吐いた。

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