オートフォーカス
加奈の言葉に目を大きく開いた。

その発想は篤希にはなかったものだ。

確かにこんな機会でもなければ広すぎる大学構内を歩き回ることはない。

「そうか…。」

それは意外な利点かもしれない。

目から鱗とはまさにこのことだ。

「うん、そうかも。」

どうやら気持ちが前を向いた篤希は目に輝きを取り戻した。

「私、写真に詳しくないから分かんないけど…それでもこの写真は凄いと思う。」

展示物には手を触れることはできない。

加奈はそっと手を伸ばし、触れることなくゆっくりと下ろした。

その表情はとても穏やかで、優しい。

「写真、撮らせてくれてありがとう。記録係、頑張ってね。」

そう言って手を振りながら加奈は部屋から出て行こうとする。

すれ違う時に加奈がクスッと笑ったのが聞こえて篤希は振り向いた。

その気配に気付いたのか、加奈も振り返る。

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