オートフォーカス
よくぞ言ってくれたと指を鳴らして前のめりになった。

出された人差し指の近さと鬱陶しさに雅之は嫌そうな顔をする。

それに構わず話にのったのは仁美だった。

「それ本当?」

それこそ一番欲しかった反応だと裕二は目を輝かせて息を荒くした。

ここからが大事だ、その意気込みでさらに力をいれて売り込みをする。

「ばあちゃんは若者の気持ちを分かってんのよ。ま、その分労働は厳しいけどね。住み込み食事付きで、日当こんなもん。」

キラキラした目のまま裕二は両手を使ってその数字を表した。

出された指の形を見て全員が目を見開き、裕二の顔を見る。

ニヤリと笑っているが彼は冗談を言っているようには見えなかった。

「うっわ…マジで?」

「さすが老舗旅館。」

雅之と仁美の感想を受けて裕二のテンションはさらに上がった。

自慢気に鼻息を荒く吐き出しながら笑う。

「さあ、プレゼンは終わり。どうだ?!」

生き生きとした目は返ってくるであろう答えを待っているようだ。

勿論、欲しい返事は1つだけ。

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